放置されたクーラーボックス


友人Oと釣りに行った後,釣果などを入れていたクーラーボックスを洗わずに10ヶ月ほど放置したことがあった。

釣りから帰ってきて,魚をさばいて食べたのだが,お腹いっぱいになったら面倒くさくなって「クーラーボックスは明日片づけよう」ということになった。ことは始まった。1日遅れるごとに掃除にかかろうとする敷居は高くなり,義務感は遠のき,果たしてクーラーボックスは魚や骨や臓物を入れられたまま,忘れ去られてしまったのである。

しかし,所有者である友人Oからクーラーボックスを「はよ返せ」という言葉には動かざるを得ない。

意を決して2ヶ月目で開けてみた。臭いがすごいことになっており,既にこの世のものとは思えない光景になっていた。実にいろんな色・カタチのカビで埋め尽くされており,風の谷のナウシカの腐海の箱庭という感じである。私は洗意を喪失し,3秒でフタをしてしまった。

半年後,「はよ返せよ」とまた催促があり,同じように開けてみるが,激臭が目にささるような感じがして,中を見る間もなく0.5秒でフタは閉まりクーラーボックスはさらなる長い眠りにつくことになった。

しかしおそらくこのままではいけない。不安になってきた。ほっておくのはいつまでもできるが,あのカビがそのまま黙っているだろうか。あと1年くらいはこのままもっても,卒業する頃にはカビ達は増殖しすぎて箱が突然爆発してしまうのではないだろうか。中はすごいことになってるんやろう。光も届かない閉鎖空間で独自の生態系ができあがっているのかもしれない。マタンゴのような生命体が孵化の時を静かに待っているのでは?

「もうこのまま捨ててしまおうか」,「とても洗えないので,すまんが自分で洗ってくれと持ち主に返すか」とかいろいろ考えたが最終的に自分で洗って返すことに決めた。

普通に洗い流すと近所に迷惑をかけるので,キムコ・ジャイアント2個の活性炭を取り出し,箱の中に「ばっ!」と入れてフタをした。それから寝かせること2週間,おそるおそる開けてみるとあの激烈な臭いは嘘のように消え去り,中は彼らの色黒い亡き骸だけになっていた。こうしてクーラーボックスの掃除は見事完了したのであった。

キムコ・ジャイアントは偉大である。

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